写真はCartierのVERMEILのムーブメントです。ARGENT、TANKなどでも同様のムーブメントが使用されていますが、この機種に不慣れな方が構造を理解しないまま電池交換作業をしてしまうとどうなるか。
過去の一例をご紹介しましょう。
この機種は電池のプラス極は横から伸びてくる「く」の字型に曲がった細いレバーで、その扱いがポイントになります。レバーを格納するスペースがあるので、本来ならレバーを横に押しつつ電池をセットするところです。写真のレバーは上下に動かされることを想定していないのですが、上から押さえ込まれたことでヒビ割れが入って折れる寸前です。導通が得られずこれでは動きません。レバーを本来の位置に動かしたくてもその時点でポキッと折れるのは明らかで、このままでは電池交換はできません。
このような状態になった同型機種を見かけるのは初めてではありません。というか時々見かける状況で、なんでこうしちゃうかなと。それ自体が困った問題です。
メーカーに出せばフルメンテナンスで費用の問題がなければそれもいいと思いますが、その部分だけを直したい場合は何か方法はないものでしょうか。そんなご希望にお応えする話です。

時計によって電池の組み込み方はさまざまで、ちょっとした手際の不出来が深刻な結果を招くこともあります。Cartierには他にも一部の機種に電池押さえのプレートを使うものもありますが、それも納めどころがきっちり決まっていて、絶縁体と絶縁体の間に差し込む必要があります。そこを間違えると導通がなく時計は動かず、間違って「故障」の宣告を受けることもありかもしれません。
そもそも他でよく見かける構造と異なるムーブメントに触れる際は細心の注意を払う必要があります。
さて、このレバーをどうするのか?
僕のお勧めする最善の方法は以下の通りです。
まずは折れないようにそうっと取り出してから、18金の極細地金を使ってひび割れをぐるり一周囲むような感じでレーザー溶接します。1mmに満たないごく僅かな部分のことなので手元震えないよう緊張する瞬間です。精密な作業でこれがうまく付いてくれると強度も戻ってバネ性も維持出来るし、金を使うことで導通もバッチリです。

そして元通りの状態に組んでいきます。

出来上がりの状態はこの通りです。
グラグラすることもなくきっちり固定されています。

電池を組み込んで出来上がり。これでお使いいただけます。
電池交換込みでこの修理代金は5,500円(税込)です。(状態によって異なることもございます)
このような修理やちょっとした不具合など、お気軽にご相談くださいませ。
何でもできるわけではありませんがお客様にとっての最善を目指すことをお約束します。
Matsuya
松屋時計店 平松 博
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