最近CARTIERの電池交換について、お知り合いの方からのご紹介や、インターネットのレビューをご覧になったりしてご相談を頂戴することが増えています。
今日はカルティエの代表的なモデル:タンクフランセーズを例に取って、電池交換や内部点検の際に私が注意している極めて重要なポイントの一つをご紹介します。
上の写真は裏ブタのネジを外したとことです。
4隅がネジ留めになっていて裏ブタはケース縁に埋まっているので、ここから裏ブタを取り出す際には傷を付けないよう自作の治具を使います。不用意にこじ開けなどで外から引っ掛けようとすると、とっかかりがなく滑らしてしまうような構造ですね。
フタを開けるとこんな風になっています。
下の写真をご覧ください。ここが重要なポイントです。
矢印のあたり一面に汚れがついているのが見えます。
ケースと裏ブタの僅かな隙間に汗や水分に溶けてこうした汚れが溜まります。
パッキンがしっかりしているとそこで止まりますので、内部の機械部分には入り込まないように出来ている訳です。
裏ブタの方に着いた汚れは割合簡単に除去できますが、タンクフランセーズの構造ですとケース側に着いた汚れの方は簡単ではありません。
さまざまな道具を使用しながら、とにかくケース内やムーブメント内に散らばらないようにすることが最優先の作業となります。
この作業を飛ばして電池交換をするとどうなるでしょうか?
一旦裏ブタを開けたことで、その周辺に着いていた汚れは浮き上がります。それをそのままにして蓋を締めると、浮き上がった汚れはパラパラとケース内部に散らばって行きます。それが歯車の隙間に挟まるとその時点で時計は止まってしまします。結果、OH分解掃除しないと動かないことになる訳です。ケースを開けるということは、そのような事態を招くこともあるので常に細心の注意を払う必要があると思っています。
下の写真で分かるように、取った汚れがこんなにあるのかと驚きます。
でもきっちりと取り切れば、こんなにスッキリします。
パッキンにはシリコンを塗布、電池も入れ替えて問題なく正常に動いています。
裏ブタを締める直前ですが、右の緑色の物は細かい汚れをくっ付けて除去する樹脂です。
ねじ山なども綺麗にしてから締めていきます。
ネジを締めてこれで出来上がりました。
気持ち良くなりましたね。
今回は汚れを内部に落とさない、残さないという部分についてご紹介しました。
こうして電池交換が完了しましたが、実際の作業では汚れのことだけを注意しているわけではありません。水分が残っていないかとか、前の電池の液漏れがないかとか、ムーブメントの状態、消費電流、油切れ、電極、リューズ、巻真、ガラス、針、ブレスレット等々、さまざまなポイントを点検しながらの作業となります。
丁寧に作業を行いますので、コンディションによって少しお時間を頂戴する場合もありますこと、どうかご理解いただきますようお願い申し上げます。
下は私が使用しているNIKONの双眼顕微鏡です。8倍〜50倍に拡大することが可能で、ルーペ(2.5倍〜10倍)では見逃すかもしれない微細な部分も両目で立体的に見ながら作業ができます。
頼りになる相棒です。